「変地獄」

こんなに早く死んでしまうとは思わなかった。
何のことはない、晩飯を買った帰り、車に轢かれて。
気が付けば、薄暗い河原に立っていた。

ひどいものだ。被食趣味などというマニアックな性癖を持ったために
ついに異性交遊に縁のないまま一生を終えてしまった。
しかも閻魔大王には「お前は変態で且つ童貞だから地獄行きだ」と
理不尽な理由で即決されてしまうし。
変態がそんなに悪いか。童貞がそんなに悪いか。
俺は何のために生きて、死んだんだ。

確かここら辺で待っているように言われていたはずだ。
既に何人か先客が。こいつらみんな地獄行きか。
よく見れば、何か俺と同じ匂いのする連中だ。当然といえば当然か。
しばらくすると、どしんどしんと地響きを上げて何かが近づいてきた。
とうとう地獄の鬼とやらとのご対面か。

「よう来たな変態ども。知ってのとおり、ここは地獄じゃ」
見上げても全貌のわからない巨体に、女の声がした。

「わらわは、閻魔大王の娘、閻姫じゃ。獄卒どもの長を務めておる。
 地獄では、わらわが貴様らの相手をするゆえ、覚悟するがよい」
見事なまでの姫様言葉。そんなえらいさんが直々にとは、
俺たちもそれはそれは因果な人生を送ったのだろう。

「さて、貴様らは全員、同じ罪で地獄に堕ちた。理由はわかるじゃろう」
ははあ、こいつら、俺も含めて童貞で死んだ連中か。
みんな信じられない顔してる。そりゃそうだ、こんな無理無体はないわな。
「そうじゃ、貴様等は『おなごに食べられる想像で欲情する』などという
 人間としてあるまじき、いや、まっとうに生きていればありえぬような
 性的趣味を持ったまま死んだあさましき衆生じゃ。
 ここに堕ちたからには、相応の責め苦を受けてもらうぞ」
おいおい、こいつらみんな揃って被食趣味者かよ。
世の中に、しかも最近死んだ人間の中にこんなにいるとは思わなかった。

「貴様らは数ある変態の中でも特に救いようがない部類。
 そのような髄まで腐りきった者どもの魂を浄化するゆえ、わらわが受け持った。
 わらわの責めは厳しいぞ。さあ、ついて参れ」
草一本とてない荒れ地をとぼとぼと歩いた。

どこをどう歩いたのか見当もつかない。
気がつくと、やけにつるつるした床の上にみんなで立っていた。
姫君の姿は見あたらない。これから早速何かされるのか。
しかし、あの姫君、あれだけ大きい体なら我々をいとも簡単に・・・。
う、いかん。生前の癖が出てしまった。
これから一体何をされるものやらわからないし、姫君の容貌だって知れない。
妄想逞しくしている場合じゃないはずだ。

・・・心なしか、周りの連中もそわそわしたり、下半身を押さえたり。
畜生、やはり同類だ。

ふと、辺りが陰った。目の前に巨岩のような何かがどっしんと据わった。
姫君だ。
「待たせたな変態ども。責め苦の用意ができたぞ。心して聞くがよい」
皆が固唾をのんだ。
「わらわが貴様らに与える責めはずばり、貴様らのあさましさを身を以て知ることじゃ。
 つまり、貴様らはこれから、わらわに食われるのじゃ」

一瞬、辺りが静まりかえった。そして誰からともなく、全員が叫んだ。
「な、なんだってーっ!?」

そう聞いてから周りを見てみると、
自分らが立っている地面が巨大な皿であることに気づいた。
姫君はどうも本気らしい。
生前、こうやって女の子に食べられることを儚い願望として妄想してきたが、
まさかこんなところで実現するとは。

「さて、早速一口いくとしようかな」
姫君はそう言って、こっちに手を伸ばしてきた。
実際食べられると思うと、恐怖心が湧いてきて足が震え出す。
しかし同時に期待と欲望も体の中でうごめいている・・・筋金入りの変態だな。
そんなことを考えているうちに、柱のような姫君の指が地面に到達した。
最初の一掴みに、俺は入らなかった。

生前、何度も妄想してきた光景が、今まさにここにある。
俺の頭の遥か上で、幾人もの男たちが女性の口の中に放り込まれている。
姫君の口は、下にいる俺たちに見せようとしているかのように大きく大きく開けられ、
暗い桃色の口蓋と白く閃く牙が見えた。
手に取った全員が入ると、姫君は口を閉じた。
そして、ゆっくり、顎を動かし始めた。

「噛んでる・・・あの娘、噛んでるぞ・・・」
周りの奴らがうろたえだした。俺も同感だ。
俺もこいつらも生きている間、女の子に丸飲みされる願望を抱いていたんだ。
口の中で噛み潰されてしまっては、お腹の中の感触を味わうことができない。
俺たちは恐怖した。そしてがっかりした。姫君のこの言葉を聞くまでは。
「うふふ・・・皆恐れておるな。そりゃそうじゃろう。
 貴様らはわらわの口の中で、この硬い歯に潰されてしまうのじゃからな。
 痛いぞ。苦しいぞ。それが地獄の苦しみというものじゃ。
 そしてそれだけでは終わらぬぞ。このあとはもちろん飲み込んで、
 貴様らはわらわの胃の中で酸の刺戟を味わうのじゃ!」

そうだ。俺たちはすでに死んでいるから、
このあと何をされても意識はそのままなのだ。
俺も、周りの連中も、強張っていた顔がゆるみ、喜びの表情を浮かべている。
変態だ、やっぱりみんな変態だ。

ごくっ・・・と、上の方からそんな音が響いた。
さっき食われた奴らが姫君に飲み込まれたのだ。
姫君は自らの手を胸から腹に当て、中身が行く場所を探っているようだ。
そして、何やらうっとりした顔をする。
「うふふ・・・動いておる、悶えておるのう。
 わらわの胃液が変態どもを苛んでおるわ・・・うふふふふ」
姫君は、俺たちを食することに快感を抱いているらしい。
向こうさんもなかなかどうして強烈な変態様のようだ。

「何を申すか。わらわは貴様らをこうして裁くことで悦んでおるのじゃ。
 ・・・まあ、無駄話をしておる暇はないぞ。次は貴様らじゃ」
そう言うと、再び恐竜の足のような手が下りてきた。
そして5つの大枝が俺たち残り全員を掴み取る。
有無を言わさぬ力で、俺たちは皿から上空に持ち上げられた。

俺たちを収めた手は、いったん姫君の面前に落ち着く。
初めて彼女の顔を真正面から見た。
まるで超大型テレビにドアップで映ったような、巨大な顔。
しかしその点を除けば、彼女は端正な顔立ちの少女だ。
表情は悪意を込めた、よく言えば妖艶な・・・幼い容貌には似合わない。
開いた口には、下からでもはっきり見えた長く鋭い牙。
それも含めて、歯は白く美しい。
これから俺たちは、ここに入るのだ。
「さあ、喰らうぞ。恐れるがいい。恐れて、自らの愚かしい欲望を羞じるのじゃ」
俺たちに向けての最後の言葉だろうか。
同時に、彼女の息が俺たちの方に舞ってきた。
さっき人を食ったわりに、生臭さのない口臭だ。

姫君は舌を出して一度唇を撫で回すと、のそっと大きな口を開いた。
まるで地割れのような勢いで、
目の前に見覚えがあるようなないような光景が生まれる。
大きさ以外は人間と変わりのない歯列。その上下の間には、唾液の柱が数本。
最奥は暗闇の中に一つ、ぶら下がった口蓋垂。
夢にまで見た、女の子の口の中だ。
そう考える間に、俺たちの体はその中へ近づいていき・・・。

湿った柔らかい地面に下ろされ、俺たちを掴んでいた手が去っていく。
後ろの光が段々と弱まり、やがて完全に閉ざされた。
しかし周囲が弱いながらも光っているので、視界は維持されている。
粘膜がかすかに光を出しているらしい。便利なことだ。
一面赤い天井と床、上下前後左右に立ち並ぶ白い岩、立ちこめる湿気と独特の臭い。
口の中にいることを実感させられ、思わず鼓動が速まる。
憧れていた、女性の口内に入るという行為が実現した昂奮と、
実際に入って本能的に覚える恐怖感。
頭上に滴り落ちてきた粘っこい唾液が、さらにその実感を強めてくれる。

俺たちが立っているのは、ぶつぶつの柔らかい床。おそらく、姫君の舌だ。
じわりと湿って、素足に伝わる感触が心地よい。
奥の穴から吹いてくる吐息のそよ風を浴びつつ
静かに姫君の口臭を嗅いでいた俺たちであったが、
そんなことを永遠に続けていられる身分であるはずがなかった。
突然足下が跳ね踊り、天井に体を叩きつけられる。
他の奴らも頬の内側に押しつけられたり舌の裏に落とされたり、
ちりぢりになりながらそれぞれ酷い目に遭わされた。
視界が高速で移りゆく中で目を懲らすと、仲間たち(?)が次第に一塊にされ、
巨大な奥歯で次々と磨り潰されている。
そして俺も、右下第一大臼歯と思しき大岩に載せられ、真上の歯が落ちてきた。

俺たちは死んでいるから、噛み潰されても死ぬわけではない。
痛みのような苦しみのような嫌な感覚が心の中を満たすが、決して気が遠くなることはない。
身は引き裂かれ、人間の形を留めなくなってしまったが、意識や五感はそのままだった。
俺は今、激しく上下する姫君の牙に張り付いている。いわば食べかすだ。
地獄の美姫の歯にも、歯垢がある。俺は形の無くなった体でそれを食んだ。
やがて、きついピンク色の舌が辺りをぐるーっと撫で回し、俺たちのなれの果てを回収し始めた。
ある程度まとまると唾液の海に浸けられ、ドロドロに混ぜられていく。
まさに、生前には味わえなかった感覚。咀嚼は痛かったが、これは快感の極致だ。
何せ、巨大な少女の唾液に浸されているのだ。この感触、温もり、匂い、味。
そしてその甘露と自分の体が同化されようとさえしている。
みんなもどうやら同じ心境らしい。最早顔も体も判然としないが、そういう意識が伝わってくる。
痛い。苦しい。恐ろしい。そして、気持ちいい。
これが、食べられるということなんだ。

周りが静かになったかと思うと、奥の方がぐーっと広くなっていく。
舌に先を付けていた口蓋垂が上がり、間に粘液の柱が立つ。
暗黒の門の両端に、ぶっくりした扁桃が覗く。閻魔の娘も扁桃炎になったりするのだろうか。
そんなことを考えている場合ではない。これからされるだろうことは容易に思いつく。
全員、舌の上に乗せられ、前部がゆっくりとせり上がっていく。
自然に俺たちはドロドロドロドロと舌の腹をなぞり逝き、奥へ奥へと。
やがて鍾乳石のように下がるのどちんこが真上に来る。
目で見たことこそあれ、全身が包まれるようなことはもちろん初めての場所。
今でも信じられない気持ちが残る。
そしてこれから行くのは、もっとすごい場所。肉眼で見たことのない、少女の体内。
舌の根と咽頭粘膜の感触を交互に味わいつつ、この数奇な状況を反芻して腹の中へと赴いた。

咽頭から食道と、肉の管を滑り落ちる。
死んだ変態たちの魂は無惨に噛み潰され、姫君の唾液と混ぜられて柔らかい塊となっている。
俺、そしておそらく今一体となった連中にとって、現状はまさに夢の実現といえよう。
ただ少なくとも俺は、丸飲みの方が良かったが。

目の前に行き止まりが現れたかと思うと、その中央が口を開け、俺たちを先に導いた。
穴の向こうは、とてつもなく広い空間。即座に、姫君の胃の中に着いたのだと悟った。
俺たちはその形を成さず合体した状態の体をもって、互いの感情を伝え合う。
概ね皆が喜び、昂奮し、快感を覚えていたと言ってよかろうと思う。
つるつるとした胃壁を這うように滑っていると、急に床が大きく揺れだした。
天井の向こうから、くぐもった音が鳴り響く。それは、人の声のように聞こえた。
「貴様らもわらわの胃に入ったようじゃな。ふふふ・・・お楽しみはこれからぞ。
 大いに苦しんで、わらわを喜ばせておくれ・・・」
みんなワクワクしながら聞いた。彼女の話を曲解している。

グラグラと動く粘膜の壁がぬるっとしだした。さらに上から透明なものが糸を引かせて落ちてくる。
この強烈に酸っぱい匂い。胃液だ。やはり、彼女も胃液を出すのだ。
口の中で姫君に噛まれた時、死にそうといって間違いないぐらいの苦痛を覚えた。
今回も、例外ではあるまい。
上下から少しずつ迫ってくる液体に、期待と恐怖を同時に感じた。

ボタッ。
液体が自分の上に落ちたのを感じた。直後、意識が飛ぶほどの強烈な感覚。
痛いというのとも違う。体の部分部分が内外から引き離されるような、未知の知覚だ。
まさに、消化されているのだと思った。思うしかなかった。他に解釈のしようがない。
周りの者達も歓喜の声は上げない。響くのは、ひたすら絶叫と呻吟。

ここまでくると、さすがに誰にとっても苦痛の場であるようだ。
自らの魂魄が、成分単位で分解されようとしている。
自分が自分でなくなる瞬間を感じさせられている。何て残酷なんだ。
紛れもなく、ここは地獄だ。
こんな痛くてつらくて苦しい場所に憧れていたなんて。自分は愚かだった。
辺りで呻いている奴らの声にも、「もう嫌だ」「出してくれ」などと聞こえるものがある。
しかしここでどんなに悔やんでも、行き着く先は決まっている。あの幽門の向こうだ。

「うふふ、うふふふ、わはははは。まったく愚かな者どもじゃ。
 これから貴様らは、わらわの小腸で生前の記憶や妄念の全てを吸収され、
 きれいでまっとうな魂となって下界に還るのじゃ。
 ああ、さっき小腸に入った魂どもが今まさに吸収されておるわ・・・。
 はぁ・・・心地よいのう・・・いつもながら何という快感かのう・・・あはぁ、んあぁ」
今となっては彼女に全く反論できない。確かに俺達は愚かだったのだ。
しかし、散々俺達を変態と罵っていた姫君も俺達を消化吸収しながら喘いでいるわけで・・・。
適材適所といおうか、変態には変態をといおうか。

体が素からバラバラになるような得体の知れない感覚を味わっていると、
これまた強烈な勢いで床が上下しだした。蠕動運動だ。
俺達と、俺達を食った姫君の胃液が混ざり合った液体の底に暗い穴が見える。幽門だ。
後悔、そんなものはない。どうあがいてもこの先へ行くことは決まっていたんだ。
いつまでも止まない苦痛。早く楽になりたい。吸収されて終わりにしたい。
生前、ずっと憧れていた場所、境遇。つらい。痛い。悔しい。情けない。

絨毯みたいな壁の毛が、俺達を誘う手のように妖しくそよぐ。
姫君の悶えるような高笑いが脳裡をよぎる。
ふと、一本の毛が俺を呼んだ気がした。そのままその毛に

白く丸い肉の桃の谷間から、透明なものが次々と落ちる。
罪業深き故に食われ、責め苦を与えられた魂達のなれの果てだ。
「ああ・・・心地よいのう。
 わらわの中で浄化された魂が再び下界へ落ちてゆくわ。
 今日の魂どもも醜悪な変態ぞろいじゃったが、皆かように澄みきって・・・」
腰をくねらせ、尻を震わせ心身共に悦びを露わにする閻魔の娘。
全ての魂が下界に落ち行くのを見守った後、
新たに来るであろう被食趣味者の霊魂らの許へと歩いていった。

彼女の腸内では、彼らの生前から消化されるまでの思念が吸収されていく。
体内探検漫画を読んだときに感じた何か、女の子に食べられることへの憧れ、
偶然目撃した同級生女子の大あくびやアイドルの胃カメラ映像で生じた心の昂ぶり、
ネットで見つけた被食SSやCG、ゲームの数々、
そして最後に出会った閻姫に食べられたこと、それによる喜びと苦痛・・・。
悉く彼女の体内に吸い取られ、残った浄い魂は下界へ帰って行った。
全てを忘れ、純粋に被食への欲求だけが残された魂。

自分の許に辿り着く霊魂が絶えない理由を、彼女は知らない。

ヲハリ


目次に戻る

動画 アダルト動画 ライブチャット